相続税の問題は、しっかりと対策をしておかないと、予想以上の負担がかかることもあります。ですが、プロの力を借りることで、賢く節税を行いながら相続を進めることが可能です。
今回は、1級ファイナンシャルプランナーがおすすめする、実際の相続プラン事例をいくつかご紹介します。相続税の節税ポイントを押さえつつ、家族の将来を守るための賢い選択を学んでいきましょう。
1. 相続対策の基本知識
相続税の対策には、いくつかの基本的なポイントがあります。
大きく分けると、生前贈与、保険、そして不動産の活用が挙げられます。それぞれの方法にはメリット・デメリットがありますが、重要なのは、家族の状況や資産の内容に応じて最適なプランを選択することです。
では、具体的な事例を見ながら、どのように節税を行うかを考えていきましょう。
※相続は、ご家庭の状況によって変わる部分が多いです。あくまで事例は参考までにご覧ください。
2. 不動産も相続したご兄弟の節税プラン(相続税なし)
- 相続財産の総額:2,000万円
- 相続人の人数と関係性:息子が2人でどちらも結婚済みで子供がいる
- 各相続人の年齢や特別な事情:長男は45歳、次男は42歳
- 株式や不動産:川崎市に一軒家、築20年で売値1,000万円
- 遺言書の有無や特別なご希望:遺言書なし
1. 相続人と法定相続分
- 相続人:息子お二人(長男45歳、次男42歳)
- 法定相続分:配偶者がいない場合、お子様が法定相続人となり、相続分は均等に1/2ずつとなります。
相続人 | 年齢 | 法定相続分 |
---|---|---|
長男 | 45歳 | 1/2 |
次男 | 42歳 | 1/2 |
2. 相続財産の内訳
資産の種類 | 評価額(円) |
---|---|
不動産(川崎市の一軒家) | 10,000,000 |
その他の財産(現金等) | 10,000,000 |
合計 | 20,000,000 |
以上の内訳で相続財産の総額が2,000万円となります。
3. 相続税について
基礎控除額の計算
基礎控除額 = 30,000,000円 +(6,000,000円 × 法定相続人の数)
事例1の法定相続人の数は兄弟の2人なので、
課税遺産総額の計算
課税遺産総額 = 相続財産総額 - 基礎控除額
相続財産総額は、2,000万円で基礎控除額:4,200万円なので
4. 遺産分割の方法
主な資産が不動産であるため、以下の方法が考えられます。
(1) 不動産を売却し、現金を等分に分配する
どちらも、住む予定がない場合に有効な手段となります。
項目 | 長男(円) | 次男(円) |
---|---|---|
不動産売却代金 | 5,000,000 | 5,000,000 |
その他の財産 | 5,000,000 | 5,000,000 |
合計取得額 | 10,000,000 | 10,000,000 |
家を売る場合には、印紙税や消費税、不動産を活用する場合の手数料などがかかってきます。売値が1,000万円で築20年で修繕なしの場合、おおよそ230万~300万円ほどの費用+税金がかかります。
面倒ということで、売却を選ぶ方が多いです。しかし、売却時の手間や手数料・税金は必ずかかってくるものです。
これらの手間や手数料・税金は、初めにだれが負担をするのか決めておくと良いでしょう。
また、被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円控除)が適用される可能性があります。条件などは、国税庁:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例をご確認ください。
計算式は以下の通り、
項目 | 計算式 | 金額(円) |
---|---|---|
譲渡価格 | 不動産売却価格 | 10,000,000 |
取得費(仮定) | 購入価格 × 経年減価率(仮定で50%とする) | 購入価格 × 50% |
譲渡費用(仮定) | 仲介手数料など | 500,000 |
譲渡所得 | 譲渡価格 – 取得費 – 譲渡費用 | 計算結果 |
特別控除額 | -3,000,000 | -3,000,000 |
課税長期譲渡所得 | 譲渡所得 – 特別控除額 | 計算結果 |
税率(長期譲渡所得) | 15%(所得税)+5%(住民税) | 合計20% |
税額 | 課税長期譲渡所得 × 20% | 計算結果 |
メリット
- 現金での分配となるため、公平性が高い。
- 将来的な不動産管理の手間が省ける。
デメリット
- 売却までに時間がかかる可能性がある。
- 売却価格が市場状況に左右される。
(2) どちらかが不動産を取得し、もう一方に代償金を支払う
例:長男が不動産を取得し、次男に代償金5,000,000円を支払う。
【代償金の計算】
項目 | 計算式 | 金額(円) |
---|---|---|
代償金 | 10,000,000円 × 1/2 | 5,000,000 |
【各相続人の取得額】
項目 | 長男(円) | 次男(円) |
---|---|---|
不動産取得 | 10,000,000 | – |
その他の財産 | 5,000,000 | 5,000,000 |
代償金支払い | -5,000,000 | +5,000,000 |
合計取得額 | 10,000,000 | 10,000,000 |
多くの場合は、不動産で分割分の相当額に対する金額を支払います。ですが、ご家族の中には他の相続人が払わなくてほいいというケースもあります。その場合は、後に証言が撤回されないように書面で契約を交わしましょう。
そこまでするのは、気が引けるかもしれませんがトラブルを避けるためには必要なことなので、割り切って行いましょう。
また、不動産の価値はあらかじめ「路線価」で決定することも契約書に盛り込んでおきましょう。そうしないと、色々な付加価値などを後から付けられる場合があるからです。
メリット
- 不動産を手放さずに済む。
- 迅速な遺産分割が可能。
デメリット
- 代償金の準備が必要。
- 不動産の評価額について合意が必要。
(3) 不動産を共有名義にする
項目 | 長男(円) | 次男(円) |
---|---|---|
不動産(持分1/2ずつ) | 5,000,000 | 5,000,000 |
その他の財産 | 5,000,000 | 5,000,000 |
合計取得額 | 10,000,000 | 10,000,000 |
折り合いがつかずにとりあえず、共有名義にする方もいるでしょう。
しかし将来、自分の持ち分だけでも売却したいとなってもそうはいかず、相続人全員の同意が必要となります。
メリット
- 不動産の相続時に代償金や売却の必要がない。
デメリット
- 将来的な管理や売却時に意見の相違が生じる可能性がある。
- 共有状態が長期化すると、紛争の原因となる。
5. 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の重要性としては、法的効力を持つため、後々のトラブル防止に有効であることや
不動産の名義変更手続きに必要となります。ぜひ、作成しておきましょう。
手順
- 相続人全員で話し合い、遺産の分割方法を決定。
- 合意内容を明文化した「遺産分割協議書」を作成。
- 相続人全員が署名・押印。
3. おすすめ相続手順
1. 専門家への相談
司法書士や税理士に相談し、適切な手続きを確認。
2. 不動産の評価
評価方法 | 内容 |
---|---|
固定資産税評価額 | 市区町村から通知される評価額。税金計算の基準。 |
時価 | 不動産会社や鑑定士に依頼して市場価格を算出。 |
3. 相続人間の話し合い
公平で相続人全員が納得のいく分割方法を、話し合って検討してください。トラブルになりそうであれば、弁護士に相談するのも検討しましょう。
4. 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書は、自分達でも作成が可能です。
書式の決まりはないですが、相続人全員の合意と署名&捺印が必要です。また一度作成すると、修正が必要な場合、また全員の同意と署名&捺印が必要となりますので、作成する場合は間違えないようにしましょう。
5. 各種手続きの実施
●不動産の名義変更
不動産の名義変更の流れ
- 必要書類を集める
- 登記申請書を作成
- 相続した不動産を管轄している法務局で登記申請
- 登記をしたら、登記識別情報等の書類を法務局から受け取る
登録免許税の計算
名義変更で主にかかるのが登録免許税になります。
項目 | 計算式 | 金額(円) |
---|---|---|
登録免許税 | 不動産評価額 × 0.4% | 10,000,000円 × 0.004 = 40,000 |
●金融機関での相続手続き
預貯金の相続手続き、不動産の相続手続き、自動車に関する相続手続き、 税金の相続手続きなどの各手続きを行います。
必要書類
遺産分割協議書、戸籍謄本、印鑑証明書など。詳しくは、各金融機関に確認してください。
3. 注意点とアドバイス
相続登記の期限
2024年4月1日以降、相続登記の申請が義務化されます。遅延すると過料が科される可能性があるため、早めの対応が必要です。
家族の感情面の配慮
相続は家族間の感情がかなり絡む問題です。第三者である専門家を交えることで、公平で円満な解決が期待できます。
将来のための対策
今回の事例を踏まえ、ご自身の相続についても早めに検討し、遺言書の作成や生前贈与などの対策を考えることをおすすめします。
4. よくある質問
相続対策や節税について、よくある質問をいくつかご紹介します。これらの質問は、多くの人が抱く疑問点ですので、ぜひ参考にしてください。
Q1. 相続税の申告は自分でできますか?
A. もちろん、自分で相続税の申告を行うことも可能です。しかし、相続には複雑な法律や税制が関わるため、間違った申告をしてしまうリスクがあります。特に財産が多い場合や複雑なケースでは、税理士やファイナンシャルプランナーの助けを借りることが推奨されます。
Q2. 相続税をゼロにする方法はありますか?
A. 基礎控除未満であれば、相続税はかかりません。
【相続の基礎控除の計算式】
基礎控除額 = 30,000,000円 +(6,000,000円 × 法定相続人の数)
また、生前贈与を上手く活用することで、相続総額を減らせるため相続税を減らすことにつながります。
Q3. 不動産を相続する場合、注意すべきポイントは?
A. 不動産を相続する際には、相続税だけでなく、維持費や管理の手間も考慮する必要があります。また、不動産の評価額が市場価格よりも低くなる場合があるため、その点を有利に活用することもできます。ただし、物件が適切に管理されていない場合は、将来の売却や賃貸運用に支障をきたすこともあるので、計画的な管理が重要です。
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