相続税基礎控除額が減り、相続税の課税対象者が約2倍に… 相続とは何かを今一度考える

相続税金

かつて相続税は「一部の富裕層だけが支払うもの」と考えられていました。
しかし、近年の税制改正により、一般家庭にも相続税の負担がのしかかる時代となっています。
特に、2015年の相続税基礎控除額の引き下げによって、これまで非課税だった世帯が次々と課税対象となり、「自分には関係ない」と思っていた人たちが、突然相続税の問題に直面しています。

しかし、この流れは本当に正しいのでしょうか?

相続税が「富の再分配」の役割を果たす一方で、本来の趣旨を超えて、一般家庭にまで過度な負担を強いることになっているのではないでしょうか?
この記事では、相続税の歴史や現状を踏まえながら、私たちが今一度「相続とは何か」を考えていきたいと思います。

 

1. 相続税の歴史と現状:富裕層から一般家庭へと広がる課税の流れ

(1) 相続税の成り立ちと目的

相続税が日本に導入されたのは1905年(明治38年)。当時の目的は、「富の集中を防ぎ、社会全体に公平な資産分配を促す」ことでした。相続によって巨額の財産が一部の富裕層に継承されることを防ぎ、国家の税収を確保する狙いがありました。

戦後の高度経済成長期、国民の所得が向上し、多くの家庭が不動産や預貯金を蓄えるようになりました。それでも、相続税はあくまで高額資産を持つ富裕層が支払うものであり、一般家庭にはあまり関係のない税金とされていましたが、近年の相続税改正により、この状況が一変しました。

(2) 2015年の税制改正:なぜ一般人が相続税の対象になったのか?

2015年の相続税改正では、基礎控除額が大幅に引き下げられました。

【改正前】
基礎控除額:5,000万円 +(1,000万円 × 法定相続人の数)
【改正後】
基礎控除額:3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

例えば、相続人が2人(配偶者と子ども1人)の場合、以前は7,000万円までが非課税でしたが、現在は4,200万円にまで引き下げられています。

これは、都市部に自宅を持つごく一般的な家庭でも相続税の対象となることを意味しています。
東京都や神奈川県、愛知県などの地価が上がっているエリアでは、「ごく普通の家」が相続税の対象になるということが多くなっているためです。

この改正によって、課税対象者は全国で約2倍に増加し、もはや富裕層だけの問題ではなくなったのです。

この改正が行われた背景には、主に以下の4つの理由があります。

財政再建と税収確保

政府は、社会保障費の増大や少子高齢化による財政赤字を解消するため、新たな税収源を求めていました。特に、高齢化が進む中で相続税の増収は、国の財源確保にとって非常に重要な課題となっていました。

● 改正の狙い
  • 増大する医療費や年金の財源を確保するため
  • 高齢者層が保有する「眠った資産」に課税し、経済活性化を促すため
影響

政府は、富裕層だけでなく都市部の中間層にも課税対象を広げることで、より多くの税収を得ることを目指しました。

 

資産格差の是正(富の再分配)

相続税は、もともと「富裕層に集中する資産を社会全体に分配する」という理念のもとに設計されていました。しかし、これまでの制度では、相続税を負担するのは限られた富裕層のみであり、多くの一般家庭には影響がありませんでした。

そこで、資産格差を是正し、税負担をより公平にするという目的で、課税範囲が拡大されました。

改正の狙い
  • 上位1%の富裕層だけでなく、幅広い層に課税を広げることで公平性を確保
  • 相続による「資産の世代間格差」を抑制し、経済の循環を促す
影響

これにより、都市部に住む一般家庭も相続税を負担することとなり、結果的に「中間層への負担増加」という問題を引き起こしました。

 

不動産価格の上昇と課税強化

2010年代に入り、都市部を中心に不動産価格が上昇し、多くの家庭が「資産価値の上昇」によって富裕層とみなされる状況が生まれました。

特に、東京や大阪などの都市部では、「自宅の評価額が高いために課税対象になる」という事態が発生しました。

改正の狙い
  • 地価の上昇によって膨れ上がった資産に課税し、不動産市場の活性化を図る
  • 相続財産が不動産中心の場合、適正な税負担を促す
影響

地方と都市部の格差が拡大し、「都心に住んでいるだけで課税対象になる」という不公平感が生じました。

生前贈与の促進と経済活性化

政府は、相続財産を「次世代に早期に移転させ、消費を促す」ことを目的に、相続税の強化と同時に「生前贈与の優遇措置」を拡充しました。

たとえば、教育資金の一括贈与や住宅取得資金の贈与など、一定額までの生前贈与に対して非課税措置が設けられました。

改正の狙い
  • 高齢者の資産を現役世代へ早期に移し、経済活動を活性化させる
  • 消費拡大を促し、税収の増加を狙う
影響

生前贈与の活用が増えた一方で、贈与税と相続税を組み合わせた節税対策が必要となり、専門家による対策が不可欠となりました。

 

2. 一般家庭が課税対象になることの是非

本当に正しいのかここで、改めて「相続税の本来の目的」を振り返るべきではないでしょうか?

2015年の改正は、税収の拡大という観点では一定の成果を上げましたが、一般家庭にとっては次のような影響を及ぼしています。

(1) 都市部の住宅所有者にとって大きな負担

都市部では、自宅の評価額が高いために「現金が少ないのに相続税が発生する」というケースが増えています。

【例】東京都世田谷区の一戸建て(土地評価額5,000万円以上)⇒ これまで非課税だったのに、改正後は課税対象に

(2)申告対象者の増加によるトラブルの増加

相続税の課税対象者が増加したことで、遺産分割のトラブルや、申告ミスによる税務署からの指摘が増加。

(3) 生前贈与の必要性の高まり

相続税を軽減するために、生前贈与の活用が急務となり、適切な資産移転計画ができていない家庭は税金負担がのしかかります。

相続税は本来、 「極端な資産格差を是正し、富裕層に適正な負担を求める」 という理念に基づいていました。
しかし、最近の改正ではその対象が広がりすぎ、一般の収入の家庭もが課税される状況になっています。

これは果たして公平と言えるのでしょうか?

郊外に一軒家を持ち、地道に資産を築いてきたサラリーマン家庭が、相続税の支払いのために家を手放さざるを得ないケースも出ています。

相続税が本当に社会のためになっているのか、疑問が残ります。

 

3. 相続税対策  一般家庭がすべきこと

しかし、そのような決まりとなっている以上、相続税の負担を軽減するためには早めの対策がカギとなってきます。
ここから相続税を軽減する方法を解説していきます。

(1) 生前贈与を活用する

年間110万円までは非課税で贈与できる「暦年贈与」を活用すれば、少しずつ資産を子どもや孫に移転し、相続時の財産を減らすことで税負担を減らします。
あらかじめ相続する予定のある資産は、生前贈与を活用するとよいでしょう。
しかし、こちらの制度も変更がありました。具体的に知りたい方は、以下の記事をご確認ください。

【2024】7年前の生前贈与でも相続税の対象に?!節税のポイントと非課税枠を解説
2023年度の税制改正が生前贈与に大きな影響を与えます。「7年も前に贈与した財産が本当に相続税の対象になるの?」と心配になる方もいるでしょう。 本記事では、具体例を交えながら、生前贈与の節税ポイントや非課税枠の活用法について詳しく解説します...

(2) 小規模宅地等の特例を利用する

相続税を支払えず相続する土地や家を処分しなければならない方が増えた背景から「小規模宅地等の特例」が設けられました。

現在では、住む家(特定居住用宅地等)は330㎡まで80%の評価額減、事業をする土地(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地)だと400㎡まで80%の評価額減となっています。
※貸付事業の場合は、200㎡まで50%の評価額減となります。

被相続人が住んでいた自宅の土地について、評価額を最大80%減額する特例を利用すれば、相続税の課税額を大幅に抑えることが可能です。

注意点としては、故人と同居していた事実がある場合のみこちらの制度が活用できます。
住民票を置いていいただけだったり、一定期間だけ住んでいた場合は対象とならない可能性が高いです。

同居していなくても、評価額を最大80%減額できる「家なき子の特例」もあるのでこちらを確認してみて下さい。

(3) 生命保険の非課税枠を活用する

法定相続人1人につき500万円までの生命保険金は非課税となるため、相続税の納税資金として活用できます。
注意点は、非課税枠を超えている分には課税されます。

 

4. まとめ:相続税は誰のための税なのか?

現在の相続税制度は、「富裕層からの公平な負担」という当初の理念を超え、一般家庭にまで課税が広がっています。
本来の目的を見失わず、相続税の負担が過度にならないよう、制度の在り方を見直すべきだと私は考えます。

しかし一方で、制度が現実的に存在する以上、私たち一人ひとりが適切な準備を行い、家族が相続税の負担に苦しまないよう対策をしていくことが、いま私たちにできる最大の努力だと言えます。

対策をすれば、50%払えばよかったものを100%で払わなければならない、
そんな時代なのだから、相続を「自分ごと」として捉えて早めの行動を始めることが、将来の安心につながるのではないでしょうか。

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